攻めに活かせる顧客管理《中小企業応援リレーコラム vol.20》
がんばる中小企業応援リレーコラム
『どうする! 反転攻勢の経営』~景気回復の芽を伸ばせ~
第4回「攻めに活かせる顧客管理」
中小企業診断士 安井 哲雄 (やすい てつお) 氏
(PDFでお読みになりたい方はこちら)
注目の参議院選挙(7月11日)が終わりました。結果は、予想どおりに民主党は単独で参院議席の半数を確保できず、政治の行方が不透明になりました。一市民として、中小企業の経営支援に係る者として、財政立て直しと税収、経済成長戦略、景気対策と中小企業支援がどうなるのか、気になるところです。
さて、選挙期間中に知人から議員候補者の紹介の葉書などを受け取った方も多いと思います。これなどは、有権者を顧客に見立てれば「攻めの顧客管理」の例といえましょう。葉書を受け取った人の反応は「全く無視する、快く投票する、義理?で投票する、投票したように装う」など様々でしょうが、少なくとも知名度は上がります。
今は不況でモノ・サービスが売れない時代ですが、そういう環境でも「攻めに活かせる顧客管理」で売上を増やしている企業もあります。
1.「モノを売る」と「お客様に買っていただく」
ビジネスの領域は、「誰に(顧客)、何を(モノ・サービス)、どのように(独自方法)、提供する」で形成されます。商品販売志向が強いと、「この商品を誰かに売る」となり、顧客志向が強いと「お客様に商品を買っていただく」になります。
安くて良い商品であれば売れた時代には商品・販売志向でやっていけましたが、不況でモノが売れない時代には顧客志向でなければ売るのが難しくなりました。
以前はマーケティングミックスでは「売り手の視点である4P」(製品Product、価格Price、プロモーションPromotion、流通Place)とされましたが、今では「買手の視点での4C(顧客価値Customer value、顧客コストCustomer cost、コミュニケーションCommunication、利便性Convenience)」という考え方も出てきています。
この顧客とのコミュニケーションは、顧客情報を把握し顧客管理を上手に行うことです。
しかし、顧客管理ができている会社とできていない会社の落差は大きいです。
2.事例1 「積極的な顧客管理で商売繁盛」― 美容院
美容院A店は大都市近郊のベッドタウンにあり、社員5名、高級感のある内装と洗練されたサービスが定評です。料金もやや高めですが、いつも主婦のお客様がいます。
A店の特徴は、社員の美容技術、接客術とコミュニケーション力です。経験豊かな店長と若々しく意欲的で、教育訓練された美容師の社員です。
A店では、顧客カードに顧客情報をきちんと記録し、整理しています。例えば、顧客の住所、連絡先、来店日、顧客の好みなどの属人情報が保管されています。店長は、頃合いをみて、お店の案内の葉書を顧客に送り、来店を促します。予約制ですから、待たされることはありません。
「どのように美しくなりたいか」という顧客の願望を知り、「美しくなる」提案や相談にのります。そこでコミュニケーションが深まり、親近感と信頼感が生まれます。
そうした主婦の口コミで評判が広がり、新しい顧客が来店し、A店へのリピート顧客が増えます。更に予約制によって繁閑なお店と社員の稼働率が幾分か平準化された結果、生産性が上がり、売上が増え収支も良くなりました。
3.事例2.「顧客管理ができず売上不振」― 小規模卸売会社
大都市にある食材卸業会社B社(社員8名)は、長年の取引がある多数の専門料理店に食材を販売しています。B社の株主になっている顧客も多くあります。B社の特徴は、顧客からの受注に対して即時配達をするなど、お客の要求に対してきめ細かなサービスを行うことと、ルート配送と営業を兼ねた「御用聞き営業」です。
しかしながら、この不況と消費者の嗜好の変化で、得意先の料理店の来客と売上が減少し、その結果、B社の食材販売の売上が減少しています。B社は売上減少の歯止めの対策として、新規顧客開拓を検討していますが、御用聞き営業スタイルから脱皮できず、新規顧客開拓に当る営業員を増やすことができず、新規顧客開拓も進みません。
この根底には、社員の属人的意識が強いことや、営業員が担当の顧客情報を抱え込み開示しないという問題があります。営業会議でも積極的な意見や情報交換は少なく、顧客情報を共有していません。お互いの営業経験から学習しあうことは稀です。
ある時、営業員が外出している間に事務担当者が電話で商品注文を受けました。営業担当者は受注内容を知らず、その顧客のお店を訪問しました。得意先の店主は気分を害し、以後に気不味い雰囲気が残りました。
この会社は難しい問題を抱えていますが、御用聞き営業から攻めの営業に転換し、新規顧客開拓を行うには、まず社員の意識改革を行い、顧客管理と営業体制を改善、工夫することが必要でしょう。
4.事例3.「販売後の顧客関係が大事」― 高額耐久消費財
住宅、自動車、家電製品などの耐久性商品においては、販売後のメンテナンス・サービスが大事です。保証期間を過ぎても製品の品質への信頼を維持し、且つ、メンテナンスやリペアのサービスで利益を稼ぐことが多いようです。そのためには、販売後も顧客情報をしっかりと管理し、顧客とのコミュニケーション(アフターサービス、電話やウエブでのヘルプサービス、各種の案内、宣伝物の配布、)を維持することが大切です。
しかし、顧客との良好な関係を維持することは、それだけに留まりません。顧客を通じて新しい顧客を紹介してもらい、売上を増やすこともできます。
例えば、C氏は数年前にD住宅販売会社(注文住宅)で住宅を新築しました。D社は営業マンと設計デザイナーが一緒になって、C氏の望んでいた住宅をC氏の予算を少し超えた価格で提供し、C氏は永年の夢に描いた自宅を建築できました。
D社の営業マンは販売した後も、アフターサービスとは別に、時折C氏宅に来訪して家の様子を聞きます。
D社は定期的に顧客に対して会報誌や案内カードを送付しており、その中で顧客紹介の依頼文が入っています。
「紹介して成約した場合は、D社から謝礼を出します。」
ある時、近隣に住むC氏の知人二人から相次いでC氏に対して「C氏の住宅を見せて欲しい。D社について聞きたい。」との依頼があり、C氏宅に来訪しました。C氏宅がD社の建築であることを知っていたか、或いはD社がC氏のことを教えたようです。
C氏は、自宅を案内しながら、自宅の状況、D社との取引の経緯や経験について説明し、来訪者は「参考になったと言って帰りました。」
しばらくして、一人から「お陰さまでD社と新築を契約した。」と報告が来ました。他の一人からは「色々と参考になったので、これから真剣に新築を検討する」との連絡が来ました。
住宅は高額であるだけに購入者は慎重であり、実際に購入した人の意見は購買の意思決定に影響を与えます。C氏は、決して紹介料が欲しくて協力したわけではありません。D社との良好なコミュニケーションが続いていたからです。
5.顧客管理を活かして攻めの営業を
この時代、売上を伸ばすには、経営戦略~営業戦略~顧客戦略の仕組み・プロセスと組織体制づくりが重要です。
一般に新規顧客開拓では、「①潜在顧客の中から見込み顧客の割り出し、②見込み顧客とのアクセス、③取引成約、④取引継続、固定顧客化(リピーター、ロイヤル顧客)」と進めます。しかし、潜在顧客の中から実際に取引に至るまでは、かなりの時間、労力と費用を要します。
そのため、少なくとも一度でも取引関係ができた顧客をしっかりと確保した上で、更に発展させる顧客管理が必要です。そうした顧客戦略と顧客管理においては顧客情報の管理と顧客情報の活用が基本となります。
(1)顧客情報の管理
顧客情報の管理では、必要な顧客情報を定めて、情報を収集し、整理、保管いたします。
①顧客情報: 一般には下記の情報があげられますが、業種・業態の特性や自社の必要に応じて決めます。
・対面販売における聞き取り情報
・レジにおける属性情報
・顧客カード作成時に記載してもらう顧客情報
・アンケート記入による顧客情報
・POS、顧客カードやポイントカードを使った購買履歴情報
・ウエブ、オンライン取引における顧客情報
(2)顧客情報の活用
顧客情報を活かして顧客とのコミュニケーションを促進します。
①「法人顧客への訪問販売」の場合は、販売実績、営業報告、営業会議を通じて、「営業、販売の見える化」を行い、販売計画とアクションプランを策定します。販促ツールの作成と提案営業の方策を検討し、アクションプランに沿って顧客訪問し営業活動を展開します。提案営業では、顧客の潜在ニーズを引き出し、購買しやすくします。
②「個人顧客などへの店舗・オンライン販売など」では、顧客属性と購買履歴を分析して、商品戦略の見直し、品揃え、ターゲット顧客を定めて販促チラシ、ファクス、メール、電話などで広告、宣伝の案内を出し、販促活動を行います。顧客の購買意欲を引出、合致させることが目標です。
6.顧客管理の仕組みとツール
もしも貴社が顧客管理に手が着いていない小規模な会社である場合は、まず、パソコンの表計算ソフトや汎用の顧客管理ソフトを使って顧客情報管理をスタートしましょう。
次に、ある程度の規模の会社では、効率化とコストパーフォーマンスを勘案し、IT機器と専用ソフトの導入が必要になります。ITの発達とパソコンや情報システム機器の低価格化、汎用パッケージソフトの出現、販促ツール・手法の開発により、顧客管理の仕組みをつくりやすくなりました。
業種・業態や規模の大小に合わせて、ステップバイステップで顧客管理の仕組みをつくり、身の丈に合った「攻めに活かせる顧客管理」を行い、売上を伸ばされますよう期待しています。









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